管理職のための部下面談:メンタルヘルスに配慮した適切な進め方
部下のメンタル不調が疑われるサインに気づいたら
職場で部下の様子がいつもと違うと感じる時、管理職としてはどのように対応すべきか悩むことがあるかと存じます。特に、メンタルヘルスに関わることかもしれません。このような状況で、部下との面談を適切に行うことは、問題の早期発見や悪化防止、そして本人へのサポートに繋がる重要なステップとなります。しかし、どのように話を進めれば良いのか、ハラスメントと誤解されないか、不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、部下のメンタル不調が疑われる際に、管理職がどのように面談を進めるべきか、その準備から実施、フォローまでのポイントを解説いたします。
面談の目的を明確にする
部下との面談を実施する前に、その目的を明確にすることが不可欠です。主な目的は以下の通りです。
- 状況把握: 部下の様子が変化した背景や現在の状況について、本人の言葉を通して理解を試みる。
- サポート意思の伝達: 会社として、あるいは管理職として、部下をサポートしたいという意思を伝える。
- 情報提供: 利用可能な社内制度(産業医面談、EAPなど)や社外の相談窓口に関する情報を提供する。
- 今後の方向性の確認: 本人の希望や考えを聞きながら、今後どのように対応を進めていくかについて、可能な範囲で共通認識を持つ。
重要なのは、面談は部下を「診断」したり、「責める」場ではないという点です。あくまで、部下の抱える可能性のある困難を理解し、適切なサポートに繋げるための対話の機会であるという認識を持って臨む必要があります。
面談前の準備
面談をスムーズかつ建設的に進めるためには、事前の準備が重要です。
-
客観的事実の整理:
- どのような行動や言動に変化が見られたのか(例:遅刻が増えた、ミスが目立つようになった、会議での発言が減ったなど)、具体的な事実に基づき整理します。
- 憶測や推測ではなく、誰が見ても確認できる客観的な情報に留めることが重要です。
- 同僚からの伝聞情報も、事実として確認できるか慎重に判断する必要があります。
-
面談場所と時間の設定:
- プライバシーが守られ、落ち着いて話せる環境を選びます。オープンスペースや人の出入りが多い場所は避けるべきです。会議室などが適しています。
- 時間を十分に確保し、途中で中断されることのないように配慮します。部下にとっても、安心して話せる時間と場所の確保は、心理的な負担を軽減します。
-
相談できる関係者との情報共有(必要に応じて):
- 人事担当者や産業医と事前に相談し、面談の進め方や、利用可能な社内リソースについて確認しておくことも有効です。ただし、部下のプライバシーには最大限配慮し、必要最小限の情報共有に留めるべきです。
-
伝える情報の準備:
- 社内の相談窓口(産業医、健康相談室、ハラスメント相談窓口など)やEAP(従業員支援プログラム)に関する情報をすぐに提示できるよう準備しておきます。
- 可能であれば、外部の公的機関や専門機関に関する情報も把握しておくと良いでしょう。
面談中のポイント
面談を実施する際は、以下の点に留意しながら進めます。
-
安心できる雰囲気作り:
- まずは日頃の労をねぎらうなど、温かい言葉で面談を開始します。
- 一方的に問い詰めるのではなく、「最近少し元気がないように見えるのだけれど、何か心配事がある?」など、相手を気遣う姿勢で切り出します。
- 面談の目的が、部下をサポートするためであることを明確に伝えます。
-
傾聴の姿勢:
- 部下の話を遮らず、最後まで attentively(注意深く)聞くことに徹します。
- 頷きや相槌を打ちながら、相手の気持ちに寄り添う姿勢を示します。
- 話したくない様子であれば、無理強いはせず、「話せる時が来たら教えてください」と伝え、いつでも相談に応じる姿勢を示します。
-
具体的な事実に基づいて話す:
- 「〇〇の会議で、いつもなら積極的に発言するあなたが静かだったので、少し気になりました」のように、具体的な行動や状況に触れながら話をします。
- 「疲れているだろう」「やる気がないのか」といった憶測や感情的な表現は避け、「〇〇という状況について、どう感じていますか?」と本人の気持ちを尋ねるようにします。
-
一方的な診断や決めつけをしない:
- 管理職は医師ではないため、「うつ病ですね」「メンタルが弱い」といった診断や病名を口にすることは絶対に避けてください。
- 本人の抱える困難を決めつけず、「何か原因があるのでしょうか」「私に何か手伝えることはありますか」といった問いかけで、本人自身が語るのを促します。
-
利用できるリソースを提示する:
- 本人が困りごとを話してくれたり、疲労やストレスを感じている様子が見られたりした場合は、会社として利用できる相談窓口や制度があることを伝えます。
- EAP(従業員支援プログラム)について説明し、プライバシーが保護される形で専門家(カウンセラーなど)に相談できることを具体的に伝えます。「匿名で利用できる」「会社に内容が知られることはない」といった点を丁寧に説明すると、利用への抵抗感が減る可能性があります。
- 産業医面談の仕組みや、必要に応じて人事部門に相談できることなども説明します。
- これらの情報を提示する際は、「利用するかどうかはあなたが決めていい」「強制ではない」という点を明確に伝えることが重要です。
-
守秘義務と今後の進め方:
- 面談の内容について、本人の許可なく他言しないこと(守秘義務)を伝えます。ただし、本人の安全に関わる場合や、会社の規程により報告義務が生じる場合があることも、簡潔に伝える必要があります。(例: 「ご本人の安全に関わることや、会社のルールに関わる場合は、関係部署(人事など)への相談が必要になる場合があります」)
- 今後の対応について、本人と相談しながら可能な範囲で合意形成を図ります。例えば、「今日は一度ここで終わりにしましょう。必要であれば、また改めて話す機会を設けられます」「まずは産業医との面談を考えてみますか?」など、具体的な次のステップを示唆します。
面談後のフォロー
面談は終着点ではなく、スタート地点です。面談後も適切なフォローが必要です。
-
関係者への相談・連携:
- 面談で得られた情報のうち、業務遂行や安全配慮上必要な情報については、関係者(人事、産業医など)と連携します。その際、プライバシーへの配慮は最大限に行い、必要最小限の情報共有に留めます。
- 面談の内容全てを詳細に伝える必要はありません。例えば、「〇〇さんから体調について相談がありました。今後、産業医面談を検討することになりましたので、ご連携します」といった形式が考えられます。
-
本人への継続的な配慮:
- 面談後も、本人の様子を注意深く見守ります。
- 急激な変化を期待せず、本人のペースに合わせてサポートを続けます。
- 業務量の調整や、柔軟な働き方など、会社として可能な配慮がないか検討し、本人や関係部署と相談します。
管理職自身のメンタルヘルスケアも大切に
部下のメンタルヘルスケアは、管理職にとって大きな負担となる場合があります。責任感から一人で抱え込んでしまい、ご自身のメンタルヘルスを損なうことのないよう注意が必要です。困難な状況に直面したり、判断に迷ったりした場合は、一人で悩まずに、人事部門や産業医、あるいはEAPなどの専門機関に相談してください。管理職自身が心身ともに健康であることが、チーム全体のメンタルヘルス維持にも繋がります。
まとめ
部下のメンタル不調が疑われる際の面談は、管理職の重要な役割の一つです。適切な準備と、傾聴を基本とした誠実な対応により、部下との信頼関係を維持しつつ、必要なサポートに繋げることが可能になります。ハラスメントへの懸念から躊躇することなく、具体的な事実に基づき、サポートの意思を伝える対話を試みてください。その過程で、EAPや産業医などの社内外の専門的なリソースを積極的に活用することが、管理職自身の負担を軽減し、より効果的なサポートへと繋がります。
この面談が、部下が抱える困難を乗り越え、再び安心して働けるようになるための一歩となることを願っております。