管理職のための「聴く力」実践法:部下のメンタルヘルスケアにつながるコミュニケーション
管理職の皆様は、日々の業務に加え、チームメンバーのパフォーマンス管理や育成、そしてメンタルヘルスケアといった多岐にわたる役割を担っておられることと思います。特に部下のメンタルヘルス不調のサインに気づいた際、どのように声をかけ、話を聴くべきか悩むケースは少なくありません。ハラスメントと誤解されることへの懸念から、適切なコミュニケーションを躊躇してしまうこともあるかもしれません。
しかし、部下のメンタルヘルスケアにおいて、「聴く力」は極めて重要な要素となります。単に話を聞くだけでなく、部下が安心して心の内を話せるような環境を作り、共感的に耳を傾けることは、不調の早期発見や深刻化の防止、そして部下との信頼関係構築につながります。
この記事では、管理職の皆様が部下のメンタルヘルスケアに役立てられる「聴く力」の実践法について解説します。
なぜ管理職に「聴く力」が必要なのか
部下のメンタルヘルスケアにおける「聴く力」には、主に以下の目的があります。
- 信頼関係の構築: 部下の話を丁寧に聴く姿勢は、「自分は大切にされている」という安心感を与え、管理職への信頼につながります。信頼関係があれば、部下は困ったときに相談しやすくなります。
- 不調の早期発見: 日頃から部下の話を聴いていると、声のトーンや話す内容、態度といった些細な変化に気づきやすくなります。これにより、メンタル不調のサインを早期に察知し、適切な対応を開始する機会を得られます。
- 部下の抱える問題の理解: 部下の話を深く聴くことで、抱えている業務上の課題、人間関係の悩み、プライベートでの出来事など、不調の背景にある可能性のある要因を理解する手がかりが得られます。
- 適切なサポートへの橋渡し: 話を聴いた結果、部下が抱える問題の性質に応じて、自分自身でのサポートが難しい場合に、社内の産業医、人事担当者、EAP(従業員支援プログラム)窓口、あるいは社外の専門機関など、より適切な支援先へ繋ぐ判断がしやすくなります。
部下の話を「聴く」ための心構えと準備
部下の話を聴く際には、いくつかの心構えと事前準備が役立ちます。
- 傾聴の姿勢: 部下の話を評価したり、結論を急いだりせず、「まずは最後まで話を聴こう」という姿勢で臨むことが重要です。部下が言葉に詰まっても、急かさずに待つ忍耐力も必要になります。
- 安心できる環境の準備: 可能であれば、周囲の目が気にならない静かで落ち着ける場所を選びます。オンラインの場合は、お互いに集中できる環境を整えます。時間も十分に確保し、「いつでもどうぞ」という姿勢ではなく、「この時間はあなたの話を聴くための時間です」ということを明確に伝えます。
- 先入観を持たない: 「どうせこういう話だろう」「あの人はいつもこうだ」といった先入観や固定観念は一度手放し、目の前の部下とその話に真摯に向き合います。
- 秘密保持への配慮: 話を聞いた内容については、他に漏らさないことを伝えます。ただし、本人の生命に関わるような緊急性の高い情報や、会社の規定に基づき報告義務のある内容については、その限りではないことを必要に応じて説明します。情報共有が必要な場合でも、本人の同意を得る、あるいは共有範囲を最小限にするなどの配慮が不可欠です。
実践!部下の話を「聴く」ための具体的な技術
具体的な「聴く」技術として、「アクティブリスニング(積極的傾聴)」の考え方が参考になります。
- 適切な相槌とアイコンタクト: 部下の話に合わせて頷いたり、「はい」「ええ」といった相槌を挟んだりすることで、「ちゃんと聴いていますよ」という意思表示になります。適度なアイコンタクトも、信頼感の醸成につながります。
- 繰り返しと要約: 部下の言葉や話の要点を繰り返したり、自身の言葉で要約して伝えたりすることで、内容の理解を確認し、部下も自分の話が伝わっていると感じやすくなります。「つまり、〇〇ということですね?」「~といった状況でしょうか?」のように問いかける形にすると、認識のずれを防げます。
- オープンクエスチョン: 「はい」「いいえ」で答えられるクローズドクエスチョンだけでなく、「具体的にはどのような点が大変だと感じていますか?」「それについて、どう思われますか?」といった、部下が自由に考えや状況を話せるオープンクエスチョンを効果的に活用します。
- 感情への応答: 話の内容だけでなく、部下が感じているであろう感情にも寄り添います。「それは辛かったですね」「〇〇と感じていらっしゃるのですね」のように、部下の感情を言葉にして返すことで、共感を示すことができます。ただし、感情を決めつけたり、深入りしすぎたりしないよう注意が必要です。
- 沈黙を恐れない: 部下が次に話す内容を考えたり、感情を整理したりするために、沈黙が必要な時もあります。無理に言葉で埋めようとせず、部下のペースに合わせます。
避けるべき「聴き方」
部下の信頼を損ねたり、話を遮ってしまったりする可能性のある聴き方にも注意が必要です。
- 一方的なアドバイス: 部下がまだ状況を整理している段階で、早計に「こうすればいい」「私の時はこうだった」とアドバイスを始めるのは避けます。まずは部下の話を最後まで聴き、部下がアドバイスを求めているか、あるいは自己解決の支援を求めているかを見極めることが重要です。
- 話を遮る: 部下の話の途中で自分の話や意見を一方的に述べ始めると、部下は「ちゃんと聞いてもらえない」と感じ、話す意欲を失ってしまいます。
- 否定や批判: 部下の考えや感情を否定したり、批判したりするような言葉は絶対に避ける必要があります。
- 決めつけや一般化: 「それは〇〇な人によくあることだよ」「気にしすぎだよ」といった決めつけや一般化は、部下の個別の状況や感情を軽視している印象を与えます。
- 自身の経験談の語りすぎ: 管理職自身の経験談を話すことが、部下への共感を示す上で役立つ場合もありますが、それが長すぎたり、部下の状況とずれていたりすると、「自分の話ばかりだ」と感じさせてしまう可能性があります。
話を聴いた後の適切な対応
部下の話を聴くことはスタート地点です。聴いた内容に基づき、適切な次のステップに進むことが重要です。
- 感謝を伝える: まずは、話をしてくれたことへの感謝を伝えます。「話してくれてありがとう」という一言が、部下にとって大きな安心につながります。
- 情報の取り扱い: 聴いた内容について、本人に無断で他部署や同僚に話さないことを改めて伝えます。ただし、専門家(産業医など)への相談や会社としての対応が必要なケースでは、その旨を伝え、どこまで共有が必要になるかなどを説明し、可能な範囲で本人の同意を得る努力をします。
- 次のステップの提案: 聴いた内容から、必要と思われるサポートや対応策を部下と一緒に検討します。
- 業務量の調整や担当変更など、職場でできること。
- 社内の相談窓口(人事、産業医、EAP等)の紹介。
- 社外の専門機関(医療機関、カウンセリング機関等)に関する一般的な情報提供。
- 上司や関係部署への報告が必要な場合、その進め方や目的の説明。 これらの選択肢を一方的に指示するのではなく、「こういった方法があるけれど、どう思いますか?」「〇〇さんはどうしたいですか?」のように、部下の意向を尊重しながら共に考える姿勢が大切です。
- 継続的な関わり: 一度話を聴いて終わりではなく、その後も部下の状況を気遣い、変化があれば再度話を聞く機会を持つなど、継続的に関わっていく姿勢を示すことが重要です。ただし、過度な干渉にならないよう配慮が必要です。
まとめ
管理職にとって、「聴く力」は部下のメンタルヘルスケアだけでなく、チームの健全な運営や部下育成においても不可欠なスキルです。部下が安心して話せる環境を作り、共感的な姿勢で耳を傾け、適切な質問を投げかけることで、部下の抱える課題や不調のサインを早期に捉えることが可能になります。
話を聴いた結果、管理職自身で対応が難しいと感じる場合には、躊躇なく社内の専門部署(人事、産業医)や外部のEAPといった専門リソースに相談し、連携を図ってください。あなた一人が抱え込む必要はありません。
部下への「聴く力」を磨くことは、ハラスメントのリスクを減らし、より心理的安全性の高い職場環境を作る上でも役立ちます。ぜひ日々のコミュニケーションの中で、「聴く」ことを意識的に実践していただければ幸いです。